福島みずほのどきどき日記

藤田和芳対談録「食の安全と被ばく」(7月5日収録)

 福島
 こんにちは。今日は「大地を守る会」の藤田和芳さんに来ていただきました。藤田さんは「大地を守る会」のトップとして、食べ物の安全、命についてずっと活動してこられた方です。今日はよろしくお願いします。
「大地を守る会」と脱原発に着いてまず聞かせていただけますか。

 藤田
 「大地を守る会」は原子力発電に反対しようとか、あるいは脱原発をずっと掲げて活動してまいりました。きっかけは1986年のチェルノブイリの原発事故です。もともと「大地を守る会」は、農薬や化学肥料を使わない安全な食べ物を農家の人たちに作ってもらってそれを消費者に運びながら、運動、日本に有機農業を広める運動と安全な食べ物を提供する運動という事業を、車の両輪のように回してきた団体ですけれど、わたしたちが1986年に何を考えたのかというと、「大地を守る会」という団体ができたのは1975年、その当時は農薬や化学肥料を使わない農業というのはそれほど市民権がなくて、農家の人たちも農村では少数派でしたし、都市の消費者の人たちも全体の中では比較的少数の人たちが、そういう安全な食べ物を求めていたと思うんです。
 でも、そういう安全なものを食べたい、特に都市の消費者とお母さん達は、自分の子どもにアトピーのお子さんがいるとか、家族に病気の人がいるとかで、とても食べ物に敏感な人たちでした。で、農家の人たちと話し合って、農薬や化学肥料を田圃や畑から減らそうといっしょうけんめい農家の人たちにお願いしてそれを買い支えたわけですね。
 しかし、農家の人たちにとって、田圃や畑から毒を取っていく、農薬を少なくするというのは大変な作業なんです。雑草をどうするかとか、虫や病気をどうやって防除するかとか、腰を曲げて重労働しながら草をとるとか、さまざまな苦労をして農薬をなるべく使わずに虫を防除するとか、いろんなことをやってだんだん技術レベルを高めて安全なものを作って約10年、そういう農家の人たちも消費者の人たちも増えてきてだんだん安全なものが手に入って、ここまでみんながんばったねという気持ちになったときに、突然、チェルノブイリの原発事故が起こりました。それで私たちはぼう然としたわけですね。どんなに努力して安全なものを手に入れよう、田圃や畑を農薬の害から守ろう、子ども達の健康を守っていこうということをやってきたのに、何の前触れもなく空から放射能が降ってきた。
 「大地を守る会」の生産農家でも、分析するとシイタケから検出される、お茶からも出て来るということが起こって、そうした農家のシイタケは食べられないとか、お茶は飲めないとか、内部でずいぶん議論になりました。私たちはそのとき、私たちの努力と全く関係なく、地球の裏側の8千キロくらい離れたところから放射能が飛んできて、私たちのこの10年間の努力は一体なんだったのかと、しかも分析してみると、岩手県の農家のシイタケと島根県のシイタケと、同じシイタケですが、分析してみるとセシウムの数値が違ったんですね。
 消費者の人たちはそれを公表してくれと言いました。でも公表すると明らかに片方が高い放射能が検出され、片方が低ければ絶対に高いほうは売れないと思ったんです。これも生産者の責任かと、消費者の人たちと議論しました。この問題に真正面から向き合って、放射能、原発の問題を考えようという議論をいろいろな形でして、最終的に私たちがたどり着いた結論は、本当に安全なものを食べたいという消費者の願いとか、環境に負荷を与えず、生態系を守りながらちゃんとした農業をしようという農民達の思いは、放射能あるいは原子力発電というものと相容れないものなんだという、本当に安全なものがほしいということになれば、農民の誇りにかけて、消費者の思いをかけて、原子力発電に変わる脱原発の社会を作るということに私たちは一生懸命になろうというふうに決めたんですね。
 それは1986年のチェルノブイリが大きなきっかけでした。それが「大地を守る会」の中に原発を止めるという専門委員会を作って、それ以来、原子力発電の新しくできるところとか、六ヶ所とかにも、私たちなりに署名集めとかさまざまな行動をしてずっとやってきたわけです。しかし、それから25年たって、チェルノブイリとは全く違う環境の3月11日の福島第一原発の事故が起きてしまった。これは私たち、日本のいろいろな、原子力発電に反対する人もいるし、漠然と脱原発社会を望んだ人たちもいるんですが、そういう人たちの思いを全部集めても、3.11まで原子力発電を止めることができなったのは痛恨の極みですね。

 福島
 「大地を守る会」の方たちは六ヶ所の問題について一緒に集会にたくさん来られたり、さまざまなところでメンバーの方たちとご一緒していてほんとに心強く思っていました。今、3.11原発事故について語ってくださったんですが、食べ物の安全、チェルノブイリで大変だったのですが、今福島で放射性物質がいろんな形で放出され、食べ物の安全、命、内部被ばく、大丈夫か、と思っていらっしゃる方はほんとに多いんですよね。この問題について今どう思っていらっしゃるか教えて下さい。

 藤田
 そうですね、僕は農家の人たちの気持ちと、小さな子どもを持っているお母さん達の気持ちを話したいんですが、福島原発が爆発したほんの数日後に福島の農家の人たちが私たちを訪ねてきました。「大地を守る会」の設立当初から、無農薬とか有機農法で頑張ってきた、しかも非常に技術レベルの高い農家の人たちなんですが、彼らがわざわざたずねてきたのは、ほんとに強いショックを受けているわけです。で、農薬や化学肥料だったら自分達の力で何とかそれを減らすとか、使わない農業の技術とかできるけれど、放射能で私たちの田圃や畑が汚染されてしまった。まだそういう具体的な数値は出ていないときだったんですけれど、しかしこれは明らかに、特に「大地を守る会」のような、安全への強い対応を願う消費者の人たちからすれば、風評被害とは言わなくても、この先のことはすごく心配だと。
 放射能で汚染されたような食べ物でも「大地を守る会」は買ってくれるんだろうかと、農家の人たちがわざわざたずねてきて言いました。で、私たちはまだそこではちゃんとした結論は出ないけれども、私は日本の第一次産業をちゃんと守っていきたいし、食料自給率40%というこの数値もこれ以上下がることをとどめたいと思うし、特に私たちの子ども・孫の時代に飢えることのないように、農家の人たちが生産基盤を持ってくれて、農業ができる環境をずっと作っていきたいと思っている。
 これは、日本の農業を守る、あなた方を守るということをちゃんとやっていく、一方で「大地を守る会」にたくさんのお母さん達がいて、子ども達を守ろうとする人たちがいて、この人たちがこの数日間で「子どもを守らなければ」という声が「大地を守る会」にものすごい勢いで入ってきている。通常は「大地を守る会」は一日600本くらいの、届いた食べ物についてなどのいろんな電話が入ってくるんですが、原発事故が起こった瞬間から、一日1500本くらい電話がかかって来て、それから東京都の水道水から放射性物質が出たという日以降は一日2000本の電話がかかってきています。電話は姫井にも似たお母さん達の声で、「私は福島の野菜は食べられない、子どもには食べさせられない、そのことはわかってほしい」とか、「「大地を守る会」はちゃんと放射能を分析しているのですか」とか、選べない形でセットもので売っている野菜があるのですが、その中には福島や北関東の野菜は入れないでとか、それから「政府の言っていることはほんとに正しいの」とか、「何を食べたらいいのか」というような電話が殺到したわけです。
 その環境下にあったので、福島の農家の人たちには、自分はこのお母さん達を守りたい、なんとしても福島の野菜を食べることができないというこの気持ちを非難することができない、従って「大地を守る会」には、関東だけでなく地方の生産者の人たちもいるので、そういう人たちにも更に農残物を出荷してくれるようにお願いするけれども、あなたたちの農産物も守れるように、「大地を守る会」の会員に、福島の農産物だけのセットを作って販売する、という2つの道に拠る方法を選択するしか私たちにはない、消費者の人たち、小さい子どもを持っているお母さん達に、あなた達は風評被害を助長するのかと言って、その野菜を買って、500ベクレル以下だから、政府が安全だからと言っているからと、子どもにも食べさせることが正しいとは言えないので、それはお母さん達が一人一人決めていくので、しかし日本の農業を守ろうというお母さん達もたくさんいるので、その人たちの力を借りてあなた達の農業を守りたいと思う、と申し上げるしかなかったです。
 でもわたしがすばらしいと思うのは、福島の野菜はどうしても食べられないという人たちでも、今まで子どもたちのために一生懸命食べ物を作ってくれたので、支援する義捐金は私は出したい、福島の野菜は食べられないけれど、と言って、千円、2千円と、お母さん達はお金を出してくれました。それが、今まで「大地を守る会」でカンパとか義捐金を集めての最高レベルでしたけれど、9千万くらいのお金が集まりました。それから、福島の農家の人たちをそれでも支えていこうということで、福島・北関東だけの野菜をセットにして、インターネットや会員向けで売り出したのですが、1週間で1万5千セットくらい、あっという間に売れました。それ以降、今でも、1500人から2000人くらい、福島の野菜だけを応援するセットということで安定的に買ってくださる人たちがいます。
 それから買わないというお母さん達には、西からの応援野菜セットというのを別に作りましたので、その人達も毎週1000人くらいが買い続けていて、いちおうバランスは取れているかなと思うんですが、それでも福島や北関東の農家の人たちは昨年ほどには売れていないんです。それから、これから米を作ろうとか、新しく作付けしようとする農家の人たちは、作っても買ってくれるんだろうかと不安です。それに放射能がまだ止まっていませんので、このあと数値がどのように高くなっていくかというようなことに対する不安もあって、生産意欲が非常に低下しています。ですから今度は、風評被害というだけじゃなくて、田んぼや畑を具体的に技術的に、どうやって放射能を除染していくのかを、福島や北関東に持ち込む必要があるんじゃないかと思っています。
 そのうえでそういう環境の農家の人たちをどう支えていくのかをちゃんとやらなければと。具体的には買ってあげるしかないんですが、買うにしても一方で食べられないという人もいるので、その環境の中で、苦しいですけど、矛盾しながらも両方のことを私たちはやっていかなきゃならないなと思っています。

 福島
 今日、話をしていただいてストンと落ちるというか、両方あるわけじゃないですか。私の方も、子どもたちに給食で安全なものを食べさせたい、安全だと言われると給食大丈夫か、防衛策としてお弁当を持たせたい、そういうママたちにもずいぶん会ったんですよ。だから、基準値より下だったら大丈夫というより、子どもにはできるだけ放射性物質を食べさせたくないという、それは当然だと思うんです。一方で生産者の皆さんも何も落ち度がない、ほんとに空から放射性物質が降ってきた。原子力発電所が問題なわけですよね。だからその人達もしっかり応援も、また補償も必要なんですよね。だからその2つをどう応援するか、しかもそのとき、どこどこの野菜だというのを表示しながらですからね。でも一方で今の話で、福島産セットを売り出したら、それをむしろ応援のために買いましょうという人たちもたくさんいたというのは興味深いですね。

 藤田
 それは大変嬉しいです。ただこのポイントは、情報が正しく公開されているかどうかということがとてもだいじだということで、同じ福島でも、たとえば浜通りの放射能の汚染度が高いと思われている地域のものと、もっと西の会津のものとをきちんと分析したら、放射能の数値は違うかもしれない。でもそういうことがなされていなくて、みないっしょくたになっている。われわれはもう放射能が飛び出してしまった時代に生きるしかない、その環境に入ったと考えると、今考えているのは、「大地を守る会」ももう少し放射能を測定する力を飛躍的に高めていこうと思っています。
 今でもやっていますけれど、「大地を守る会」の出していく野菜に関しては、これは何ベクレルという数値をちゃんとつけて、もちろん、政府の言っている基準値以上のものは当然売れないわけですが、基準値以下のもので大丈夫だと言っているものについても数値を出す、政府の言う500ベクレル以下なら、499ベクレルでも50ベクレルでも売りたいとする場合に、消費者の人たちは「大地を守る会」に50ベクレルとか100ベクレルとか基準を決めてもらって、「大地を守る会」だけは安全、ということを求めないでもらいたい、そういう時代を超えてしまったということを認識してもらいたいんですね。食べ物の賞味期限のように、何月何日までは安全ですがそれを過ぎたら食べられませんと次の日は捨ててしまう、というような、誰かに指示されたり、ここまでは大丈夫というのをうのみにするような時代ではなくて、放射能については自分が決定する、だから499でも安全だから私は食べてもいいという人もいるかもしれないけれど、50ベクレルでも自分の子どもには与えられない、自分で決めて、これは食べる、これは食べないという人たちが参加して自治をする、自己決定をする、という放射能にはその姿勢でないと、多分これからは大変だと思います。
 ですから、その前提は、情報がいつでも正しく公開されているということで、公開された情報を自分でどう受け止めるか、食べるか食べないか決めていくというのがこれからの生き方だと思う、その環境の中で日本の農業をどう守るかとか、みな50ベクレル以下としてしまうと、とても広範な範囲の農家の野菜を食べられないかもしれない、それでも私はそれは食べられないという人もいるけれども、そうじゃなくて、そういう人たちを支えていこうという人たちも、自分で決めてやっていこうということがだいじだし、それからもう一つは、放射能は大変大きな毒で、その毒が体内に入らざるを得ない環境にあるけれども、いろんな毒、農薬とか化学肥料とか添加物とか入ってくる時代に、農薬や添加物を減らして自分の免疫機能を高めて放射能に立ち向かうという、何でも毒を入れてしまうというのではなく、それぞれのところで可能な範囲で安全な物を取得しながら自分の子どもを守るというような、そういう姿勢がこれからは大事ではないかなと思います。

 福島
 そうですね。それから自分の家で食べるものはある程度コントロールできるけれども、給食のようにみながいっせいに食べるもの、今までせっかく地産地消と言ってきたのに、と思うんですが、給食については、私は、従来の基準値よりも、子どもが相手なので、食品安全委員会の中にもそういう議論があるやに聞いていますが、子どもと大人は違う、もちろん大人も被ばくしないほうがいいんですが、子どもは大人が守らなければいけなくて、基準はやっぱり低い方がいいんじゃないか、で、給食は子どもがいっせいに食べるものなので、そこについては基準をある程度しっかりしていこう、ということはすごくやりたいんですよね。

 藤田 
 それはほんとに政治の世界だと思います。子どもと大人は全然違うので、子どもを学校給食などでちゃんと守るという体制を作ってあげる必要があるので、給食用の基準値はちゃんと作った方がいいと思います。大人はいいとは言いませんけど、でも大人はまだ自分で選んで食べられるし、自分の生き方について自己決定できるんですけど、子どもはそういうことができない、しかも子どもは大人よりはるかに被ばくした場合の影響が大きいわけですから、強制的に食べさせられる学校給食については、政治の世界というか、大人たちが子どもたちを守るためのさまざまな政策をちゃんとやるべきだと思いますね。

 福島
 今日は食べ物の話を聞くことができて嬉しく思っています。一本の大根からとか、食べ物について非常に取り組んでこられた藤田さんにしてみると、今回の3.11の福島原発ってほんとにショックというか、どんな思いですか。そのことと、今後どうしたらいいかについて、さいごに語って頂けますか。

 藤田
 これだけ人間がコントロールできない大きい技術というか、原発というものをどうして人類は作ってしまったんだろうかと思います。しかし人間が努力して、農薬や化学肥料、食べ物の添加物を減らしていくことはできるんですが、原発だけは、一回飛び出してしまうと、セシウムなど30年もかかってしまいますし、しかも限定的でなく、ものすごく広範囲に広がっていく。海に出ているあの放射能がこれから魚や海産物にどのような影響を及ぼすかと思いますし、3月11日の事態はものすごく大きいと思います。もちろん、東京電力とか今の政治が悪いという気持ちも一部にはありますが、効率や生産性を求めてたくさんのエネルギーを使うこういう社会を私たちが作り上げてきている、その結果として、3.11が起こってしまったんだと思うので、ここで、日本、地球をどう作り変えていくのかという出発点にしないと、あまりにも大きな犠牲を払ったことに応えられないと思いますね。

 福島
 ほんとにそのとおりだと思います。今日はほんとにわざわざありがとうございました。

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