福島みずほのどきどき日記

「自民党憲法改正草案」に関するQ&A

6月5日(水)

 2012年4月27日、自民党は「日本国憲法改正草案」(以下「自民党改憲案」と言います)を発表しました。自民党は参議院議員選挙の公約に改憲案の提出を掲げています。参議院選挙後には一挙に96条改憲、その他の憲法改正へとひた走るのではないでしょうか。非常に重要な局面です。ひとりでも多くの人に考えてもらいたいと思います。そこで、Q&Aをつくりました。

Q1.自民党改憲案の何が問題なのですか。

A.改憲案は、前文を含め、全面改定の中身です。基本的人権の部分と9条の改悪の2つが大きな問題です。憲法は基本的人権を保障するためにあります。憲法とは「表現の自由を侵害するな」というように国家権力を縛るものです。しかし自民党改憲案は、国家権力が個人を縛るものになっていることが最大の問題です。


Q2.自民党改憲案はなぜ、国民の憲法尊重擁護義務を新たに規定しているのでしょうか。

A.日本国憲法は、99条で憲法尊重擁護義務を次のように規定しています。
「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う」。
憲法を守れというのは、国務大臣、国会議員などに課されているのですね。
 まさにこれが立憲主義のあらわれです。権力行使に憲法で歯止めをかけるという考え方を立憲主義といいます。いくら多数決によっても基本的人権を奪うことはできないということで、権力行使にしっかりと歯止めをかけています。ところで、自民党改憲案は「全て国民はこの憲法を尊重しあわなければならない」として、まず国民に憲法尊重擁護義務を課しています。立憲主義ではなく、さかさま、あべこべです。国民に「この憲法を守れ」と命令し、縛っているのです。


Q3.国民に義務は課されていますか?
 
A.
①日の丸・君が代、国旗国歌尊重義務
3条   国旗は日章旗とし、国歌は君が代とする。
 第2項 日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない。

②領土・資源確保義務
9条の3  国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない。

③公益及び公の秩序服従義務
12条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力により、保持されなければならない。国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない。

④個人情報不正取得等禁止義務
19条の2 何人も、個人に関する情報を不当に取得し、保有し、又は利用してはならない。

⑤家族助け合い義務
24条 家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。

⑥環境保全義務
25条の2 国は、国民と協力して、国民が良好な環境を享受することができるようにその保全に努めなければならない。

⑦地方自治負担分担義務
92条第2項 住民は、その属する地方自治体の役務の提供を等しく受ける権利を有し、その負担を公平に分担する義務を負う。

⑧緊急事態指示服従義務
99条第3項 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。

⑨憲法尊重擁護義務
102条第1項 全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。

 以上9つの義務が、国民に対して課せられています。
 自民党改憲案前文の「日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り」を「国防の義務」と考えれば、10の義務を課していることになります。


Q4.自民党改憲案は、基本的人権をどう考えているのでしょうか。
 
A.自民党の「日本国憲法改正草案Q&A」(以下「自民党Q&A」とする)は、14ページで次のように書いています。
「現行憲法の規定の中には、西欧の天賦人権説に基づいて規定されていると思われるものが散見されることから、こうした規定は改める必要があるとかんがえました。」この記述を読む限り、自民党は天賦人権説に立たないのです。天賦人権説とは、「人は生まれながらにして、自由・平等である」という考え方で、憲法以前に権利は与えられているというもので、フランス人権宣言、アメリカの独立宣言、日本も批准している国際人権規約などもこの考え方に立っています。天賦人権説に立たない自民党の基本的人権の考え方は、国際人権規約違反となるのではないでしょうか。


Q5.自民党改革案は、日本国憲法第10章「最高法規」の中の97条を完全に削除しています。これはなぜなのでしょう。
 
A.第10章「最高法規」の中の97条は、次のように規定しています。
 「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に堪え、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。」
 自民党改革案は、この規定を完全に削除していますが、その理由は「自民党Q&A」でも一切説明がありません。
 5月14日参議院予算委員会で安倍総理に質問をしました。11条に吸収された旨の答弁がありました。しかし11条は日本国憲法に元々ある条文です。97条は、憲法が最高法規とされているのは基本的人権を保障するためであり、人権の確立は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は永久に不可侵であると宣言した条項です。立憲主義に表れであり、次の最高法規(98条)を実質的に支える規定です。
 97条削除になかに、自民党の基本的人権についての考え方が現れているのではないでしょうか。


Q6.憲法13条をどう変えようとしているのですか?
 
A.日本国憲法は13条で次のように規定しています。
「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」
自民党改憲案は次の通りです。
「全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。」
「すべて国民は、個人として尊重される」というのが「全て国民は、人として尊重される」となっています。「個人」として尊重されることの何が問題で変えるのでしょうか。
ところで、日本国憲法では、「公共の福祉に反しない限り」が、自民党改憲案では「公益及び公の秩序に反しない限り」に変わっています。どう変わるのでしょうか。
「自民党Q&A」は、「学説上は『公共の福祉は、人権相互の衝突の場合に限って、その権利行使を制約するものであって、個々の人権を超えた公益による直接的な権利制約を正当化するものではない』などという解釈が主張されています。今回の改正では、このように意味が曖昧である『公共の福祉』という文言を『公益及び公の秩序』と改正することにより、憲法によって保障される基本的人権の制約は、人権相互の衝突に限られるものではないことを明らかにしたものです。」としています。
 裁判では、人権と人権の衝突の場合にどちらを優先させるかという衡量がとられてきました。このケースの場合、表現の自由とプライバシー権のどちらを優先するか、この場合、公人のプライバシーなので、やはり表現の自由を優先させるべきではないか、というように、どのような表現の自由で、どのようなプライバシーの権利か、が争われてきた訳です。このように基本的人権を制限するときは、他のどのような権利や利益を優先させるのか、他に手段はないのかというように具体的に論争されてきました。
 しかし、自民党改憲案は、前述した通り、「『公益及び公の秩序』と改正することにより、憲法によって保障される基本的人権の制約は、人権相互の制約に限られるものではないことを明らかにしたものです」としています。
「自民党Q&A」(P14)は、「公共の福祉」についての議論に関して、「『個々の人権を超えた公益による直接的な権利制約を正当化するものではない』などという解釈が主張されています。」と否定的に紹介していますから、自民党は「個々の人権を超えた公益による直接的な権利制約を正当化する」ということになるでしょう。
個々の人権の衝突ではなく個々の人権を超えた公益によって直接的に権利制約をするということなりそうです。
ところで、「公益」とは何でしょうか。国益に限りなく近くなったり、その時の政府の利益が「公益」とされ、それによって基本的人権とりわけ表現の自由や結社の自由が制限されるのではないでしょうか。沖縄の辺野古沖に米軍の海上基地を作ることは、政府の方針です。だとすると、これは「公益」でしょうか。山口県に上関原発を作ることは「公益」でしょうか。福島原発事故が起きる前に、上関に行き、上関原発に反対している人が多い祝島に船で渡ろうとしたときに、数人に取り囲まれ、「なぜ国策に反対するのか」と言われました。原発建設も原発推進も長い間、「国策」と言われてきました。反原発運動は長い間、「なぜ国策に反対するのか」と言われてきたのです。その「国策」の結果、起きたのが福島原発事故です。
 「公益」や「国策」「国益」として行われることにも、間違いや欠点がもちろんあります。だからこそ、「公益」ともすれば時の政府の利益を理由に、基本的人権を制限することは大変危険です。
 「公の秩序」とは何でしょうか。戦前、治安維持法などがいくらでも人々の権利を制限しました。
 日本国憲法の下で、私たちは「この法律は基本的人権を保障した憲法○条に反している」と違憲訴訟を提起し、実際、数は少ないですが違憲判決は出ています。
 しかし、「公益及び公の秩序」によって基本的人権を制限できるとなると、そのような法律も可能になります。それで違憲訴訟を提起しても、公益及び公の秩序によって基本的人権を制限できるとした自民党改憲憲法の下では、裁判所はなかなか違憲判決を出せなくなります。
 自民党改憲案は11条で「国民の責務」を規定し、国民は「常に公益及び公の秩序に反してはならない」としています。デモに参加する場合も「公の秩序を守れ」となるでしょう。しかし、公の秩序自体があいまいです。この規定と、基本的人権を「公益及び公の秩序」で制限できるというのはセットです。国民ががんじがらめになるのではないでしょうか。
 明治憲法下では「法律の留保」(臣民ハ法律ノ範囲ニ於テ)の範囲内で権利を保障されていました。ですから治安維持法や国家総動員法など多くの法律のもとで権利はなくなってしまったのです。明治憲法下の「法律の留保」のついた人権保障と変わらなくなります。


Q7.自民党は、憲法9条をどう変えようとしているのでしょうか。

A.「第2章 戦争の放棄」のタイトルを「安全保障」に変えています。
 日本国憲法は戦争の放棄(9条1項)、戦力の不保持(9条2項前段)、交戦権の否認(9条2項後段)の3要素を規定しています。
 自民党改憲案は、9条1項を変えず、9条2項(戦力の不保持、交戦権の否認)を全面的に削除しています。そして、9条2項を「前項の規定は自衛権の発動を妨げるものではない」とします。
 「自民党Q&A」は、この自衛権には集団的自衛権が含まれているとし、「自衛権の行使には、何らの制約もないように規定しました」としています。集団的自衛権も交戦権も武力行使も認めることになります。集団的自衛権の行使を認めれば、アメリカの世界戦略に基づいて、アメリカと共に参戦していくことになります。
 イラク特措法が成立したときも、日本の自衛隊は武力行使はしないことになっていました。イラク戦争は、戦争の理由だった大量破壊兵器はなかったことが明らかになりました。あの時に、自民党改憲の憲法になっていたら、「国防軍」はまさにイラクで人々を殺していたことになっていたのではないでしょうか。
 「戦争をしない国」から「戦争をする国」へ、大きく転換することになります。


Q8. 自民党改憲案は、「9条の2」を規定していますね。

A.9条の2は、1項で国防軍の保持を規定し、3項で「国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。」としています。
 自衛権の行使でない国際協力の名目での海外派兵や、国内治安維持のための軍隊出動・軍事的制圧も憲法上できることになります。
 今まで、デモの警備は警察がしてきました。改憲後は、国防軍がデモの警備や鎮圧にも出てくることが出来ることになります。


Q9. 戦争をするのに、国会はどう関与するのでしょうか。

A.自民党改憲案は、9条の2の第2項において、「国防軍は、前項の規定による任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。」としています。国防軍が戦争を開始するときに、「国会の承認その他の統制に服する」のですが、憲法上国会の事前承認が必要とされていません。さらに言えば、「その他の統制」としていますから、国会の事後承認も必要としていないと言えます。戦争をするときに、国家の事前承認すら必要ないということは、大問題です。


Q10. 軍法会議がおかれるのですか。
 
A.自民党改憲案は、9条の2の第4項で、国防軍の機密保持を規定し、5項で「 国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防軍に審判所を置く。」としています。軍法会議であり、「自民党Q&A」は、裁判官や検察、弁護側も、主に軍人の中から選ばれることが想定されます。」としている。
 すべて軍人の中で行われる軍法会議で、身内の犯罪を軽く裁く、情報が外へ出てこない、裁判の公開の原則はどうなるのか、などの問題点が指摘されています。


Q11.憲法24条はどうなるのですか。

A.憲法24条は、家族における個人の尊厳と両性の平等を規定した条文です。日本国憲法にこの規定が設けられたので、民法の親族編・相続編が大改正になりました。日本で子ども時代を過ごしたベアテ・シロタ・ゴードンさんが、GHQのスタッフになり、この条文を入れるために努力をしました。その経緯については、2000年5月2日参議院の憲法調査会に参考人として呼ばれ、発言をしています。
 自民党改憲案は、24条1項に「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。」としています。「自民党Q&A」は、「家族の絆が薄くなってきている」ためと説明しています。しかし、「家族は、互いに助け合わなければならない。」というのは、憲法に書くべきことでしょうか。道徳や心構えに属する問題であって、憲法に国民の義務のような形で書くことは、憲法の趣旨に合致しません。
 また、家族の助け合いを強調することは、ひいては自助や自己責任、「家族の中でやれ」ということにつながらないかと危惧をします。


Q12.政教分離の緩和をしているのですか。

A.憲法20条の政教分離の原則を緩和しています。日本国憲法は、20条1項後段は、「いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。」としています。
 自民党改憲案は、「国は、いかなる宗教団体に対しても、特権を与えてはならない。」としており、宗教団体が政治権力を行使しても憲法違反ならないとしているのです。さらに、自民党改憲案は、3項で、社会的儀礼・習俗的行為であれば、国・地方公共団体の宗教的活動も許されるとしています。
 戦前の反省に立った政教分離の原則を緩和し、「儀礼・習俗的行為」として、国・地方公共団体の宗教的活動が拡大していくことになってしまいます。


Q13. 憲法96条を改正することに、どのような問題があるのですか。

A.日本国憲法は、憲法改正について「各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議」と規定しています。これを自民党改憲案は、「過半数の賛成」としています。過半数というのは、法律の成立要件です。時の政府は、過半数をほぼ持っています。自民党改憲案では、時の政府がいつでも改憲の発議ができることになってしまいます。憲法を国家権力の意のままに変える発議を可能とすることは立憲主義を破壊するものです。


Q14. 日本国憲法は、改憲の手続きが厳格なので、改正されなかったのではないですか。

A.自民党Q&Aでは、「世界的に見ても、改正しにくい憲法」としています。しかし、日本国憲法の改正要件が、他の国の規定に比べて厳しいことはありません。各国の改憲規定を以下に示します。

・アメリカ…各議院の3分の2以上の賛成、4分の3以上の州議会の承認
・フランス…各議院の過半数の賛成、国民投票か政府提出なら両院合同会議の5分の3以上の賛成
・ドイツ…各議院の3分の2以上の賛成
・イタリア…各議院の過半数の賛成、3カ月以上経過後に各議院の3分の2以上の賛成、要求があれば国民投票
・カナダ…各議院の過半数の賛成、3分の2以上の州議会の承認
・韓国…国会の3分の2以上の賛成、国民投票(有権者の過半数の投票かつ投票総数の過半数の賛成)

ちなみに、日本国憲法においては、憲法改正発議の他にも、議院の出席議員の3分の2以上の賛成要件には、以下の条項があります。

・議院における議員の資格争訟(55条)
・議院の会議における秘密会の開催(57条1項)
・議院における議員の除名(58条2項)
・法律案の参議院否決後の衆議院での再議決(59条2項)

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